はじめに

本稿は、2012年9月22日に開催した、おかやま酒祭り2012(※1 以下、酒祭りと言う)で採用された、NFCタグ入場者管理システム(以下、当システムと言う)について紹介する。 技術的な背景は、現在と変わっているが、その部分は後半で補足することにした。 私は酒祭りの実行委員として、運営について決定をする会議に出席しており、当システムの企画、設計から製作、運用までを担当した。

※1 おかやま酒祭り
http://okayama-sakefes.com
おかやま酒祭りのFacebook

当システムが必要とされた背景

2012年の酒祭りは、初めて岡山市中心部の公園を会場として使用し、1000名の来場者を見込み開催した。 これ以前は、吉備土手下麦酒醸造所の敷地内にて、蔵元6社、来場者150名ほどの規模で開催していたが、出店する蔵元が23社(日本酒14社、ビール7社、ワイン2社、合計200銘柄弱)となり、来場者1000名以上という規模は、実行委員全員が初めての経験だった。 ちなみに実行委員は、ボランティアでそれぞれ職業も違う、イベント開催については素人である。 開催概要は以下の通りとなる。

(1)お客様は定額の飲み放題である
(2)飲み放題のチケット販売金は実行委員会が管理する
(3)会場は公園のため、人の出入りは自由である
(4)お店は各蔵元が運営する
(5)出店は岡山県内に醸造所を置く蔵元に限定する
(6)実行委員会はお店が提供したお酒に応じた金額を支払う
(7)昼の部と夜の部があり、チケットは別々である

実行委員会は、以下3つの問題を解決する方法を探していた。

(1)お客様は定額の飲み放題となるため、チケット購入者以外の不正を防止したい
(2)お店は各蔵元が運営するので、提供したお酒の精算を、早く確実に実行したい
(3)実行委員会が管理に使う経費は、できるだけ減らしたい

始めから当システムの話があったわけではなく、様々な方法を検討していた。 当システムも全ての問題を解決できなかったが、新しい事にチャレンジしていこうと言う考えから、採用されることになった。

提案した案

(1)お客様はNFCタグ付きリストバンドを、付けてもらう
(2)お店はお客様へお酒を提供する前に、スマホでNFCタグを読み取る
(3)スマホは、店番号、NFCタグ番号、金額をセンターへ送り、お酒提供の可否を表示する

システムの構成

第1図 システムの構成

システムの構成は第1図の通りである。 当システムの一番の特徴は、スマホのおサイフケータイ(※2)を、NFCリーダとして利用したことにある。 NFCリーダ機能と、通信機能の両方を備え、手に入りやすい機器は、スマホ以外になかった。 ただ、おサイフケータイのアプリを作成した経験は無く、本当にスマホをNFCリーダとして利用できるのか、ドコモ中国支社様には何度も相談させて頂いた。 またスマホの導入は、ドコモ中国支社様の好意により、社会実験として貸し出して頂くことにより可能となった。 お店は23あるので、予備を含め40台のスマホ(写真1)を用意した。 ドコモ中国支社様には大変感謝している。

おサイフケータイ機能付きスマホ

写真1 おサイフケータイ機能付きスマホ

NFCタグは、バーコードと比較検討したが、以下の効果を期待して採用した。

(1)電子チケットで管理している事をアピールし、不正利用を防止する
(2)NFCタグ内にURLを埋め込み、ネット上のサービスと連携する
(3)再利用する

スマホのNFCリーダは、おサイフケータイ機能を使うため、NFCタグはFeliCa(※3)となった。 問題は価格であるが、相談していた台湾のSAG社から、FeliCa Liteインレイ型の提案があり、価格も安価になったため採用を決定した。 インレイ型とは(写真2)シール付きラベルになっており、リストバンドに貼りやすくなっている。

※2 「おサイフケータイ」は、(株)NTTドコモの登録商標。
※3 「FeliCa」は、ソニー(株)の登録商標。

SAG社のホームページ>

FeliCa Lite インレイ型タグ

写真2 FeliCa Lite インレイ型タグ

アプリ開発

システム設計は、アプリを3つ用意し、各機能を以下のように決めた。

(1)スマホアプリ
 ア.NFCタグの読み取り機能
 イ.NFCタグの情報などをセンターへ送信し、お酒提供可否の結果を表示する機能
(2)センターアプリ
 ア.WindowsServerのWebアプリとSQLServerで運用
 イ.スマホからの依頼を処理し、お酒提供の可否と回数を返す機能
 ウ.NFCタグを有効にする機能
(3)NFCタグ登録アプリ
 ア.現地に持ち込んだノートPCとNFCリーダで運用
 イ.NFCタグの読み取り機能
 ウ.NFCタグの情報をセンターへ送信し、NFCタグを有効にする機能

上記(3)のアプリは、NFCタグの無駄の発生を防止する機能である。 酒祭りは当日券の販売もあるため、来場者数は事前に決まっていない。 そのため来場者が増えれば、それに応じてリストバンドを用意しなければならない。 また昼の部と夜の部があるため、先にNFCタグを全部登録しておくと言う分けにもいかない。 できるだけ現地での作業は行いたくなかったが、以上のようなことから、現地でのNFCタグ有効化作業が発生してしまった。

各アプリやデータ通信の設計は、必要な機能だけに絞り込んだので、全体のアプリ開発のボリュームは抑えることが出来た。 しかし、スマホアプリの開発過程で、次の項の問題が発生した。

アプリ開発で問題発生

(1)スマホアプリ開発準備
スマホアプリはAndroidの開発環境があれば作成できるが、おサイフケータイ部分は勝手に開発できない。 必要な作業は、ドコモ様への登録、フェリカネットワークス様から許可証の取得が必要であり、FeliCa Liteの場合はソニー様の許諾も必要となる。 詳しくは各社のホームページを参照して欲しい。 各社とのやり取りは2ヶ月ほど時間がかかるので、予定は余裕を持つ必要がある。 私の場合は、5月末に最初の依頼を行い、全てが完了したのは8月始めであった。 酒祭り開催まで2ヶ月を切っていたので、NFCタグの読み取りが、こちらの予想通りにできるのか、とても気をもむ状況となっていた。

ドコモ様の開発者向け情報サイト

フェリカネットワークス様の開発者向け情報サイト

(2)リストバンドに貼ったNFCタグ

おサイフケータイの機能で、NFCタグは読み取り出来るようになったが、NFCタグをリストバンドに貼ると、読み取り出来ない事が発生した。 手首にぴったりとNFCタグが張り付くと、読み取れないようだ。 USBでPCから使うNFCリーダでは読み取りできるので、スマホのアンテナ性能か、電波の出力差によるものと思うが、検証はできていない。 対策として、リストバンドとNFCタグの間にスポンジを入れて(写真3)、隙間ができるようにした。

スポンジを入れたNFCタグ付きリストバンド

写真3 スポンジを入れたNFCタグ付きリストバンド

(3)読み取り性能の差

9月に入り、貸し出し頂くスマホが届いた。 全て同じ機種を希望したが、数が足りず、複数の機種に分かれることになった。 問題は機種によって、NFCタグの読み取りが早い機種、読み取りに少し時間がかかる機種と差があった。 同一機種では差がないので、スマホの種類で差があると思えた。 これはアプリでどうにか出来ることではないため、読み取りの早い機種を優先して利用することにした。

開催結果とシステム利用に効果

GTicket14.jpg

写真4 筆者が読み取りを手伝っているところ

一番の目的としていた、不正利用の防止効果は、十分にあったと思われる。(写真4) お店から不審なお客様の報告はなく、また酒祭り全体の収支も、入場者数に応じた数字となった。 それよりも、電子チケットをスマホで読み取るという行為が、珍しさもあり、お客様とお店の会話の材料になっていた。 スマホの画面には、お客様に提供した数を表示しているので、「もう○○杯目ですよ」とお声がけすると、「いやあ、このお酒が美味しいから」など、楽しい会話があった。

行動分析は、1人1人がユニークなIDを持っているため可能となった。 1人の平均飲酒数や、滞在時間、酒種別集計などができた。 面白かったのは、飲酒数の多い人ほど、後半に訪れた店が固定する傾向があった。 その場合のお店は、日本酒のブースではなく、地ビールのブースであった。 呑兵衛は、最後のシメにビールを飲むものなのか、それとも他の理由があるのか、じっくり考察したいものである。

残念だったことは、FeliCa Liteの内部領域に入れた、NFCスマートポスターが、使われなかったことだ。 おそらく関係者以外は、アクセスしていないと思われる程の、アクセス数であった。 この頃のガラケーでも、ICタグリーダはアプリとして使えるようになっていたが、それを知っているお客様はいなかった。 やはり普段から利用機会がなければ、知らない機能になると言うことだろう。

もし再設計するなら

現在では、海外製端末(SIMフリー)の多くにNFC機能が搭載されており、安価な機種も増えている。 携帯通信環境もMVMOと言う割安で使えるものが登場しており、利用するための機器は選択肢が増えている。 iPhone7もFeliCaのチップを搭載しており、iPhone7のIdmは読み出せるようだ。 NFCリーダとしての利用は制限されているようだが、今後が気になる機種である。 また、端末の管理機能(アプリ制限やリモートワイプなど)が装備された端末(ASUS社のタブレット)も販売されている。 企業で使う場合は、ユーザーの利用を制限する必要もあるので、導入先の環境によって選択したい機能である。

NFCタグの方は、WiFiやBluetooth機器とのペアリングとして、使われている場所が増えているのを感じている。 面白いところでは、HF帯タグのI-CODE SLIXも端末のNFCで読み出せる機種があることだ。 NFC Forumでは、NfcA、NfcB、NfcFまでを定義しているが、HF帯としてよく使われているSLIXも、NfcVとして広い意味でNFCに含まれている。 端末によりNfcVは対応していない機種もあるが、ASUS社のタブレットはSLIXを読み出せた。(写真5)

ASUS ZenPad M700KL

写真5  ASUS ZenPad (M700KL)

もし設計するなら、物流などで広く使われるSLIXも利用でき、NFC機能付き端末も増えているので、多くの選択肢から選ぶことになる。 組み合せのテストは大変になるが、最適なものを選択できる楽しみもある。 テストでは、読み取りにくい組み合せもチェックする必要がある。 読み取りテストは欠かせないので、NFCの読み取りアプリ(※4)をGooglePlayで公開している。 アプリは端末からのポーリングに対して、NFCタグが応答しただけの結果を表示している。 メモリ領域へのアクセスは行っていない。 シンプルな機能しかないが、これで読み出しできなければ、テストした端末とNFCタグの組合せは、利用できないと判断できる。 よければ利用してもらいたい。

※4 NFC読み出しアプリ
GooglePlayで「lukesys」と検索するか、以下のURLを参照
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.lukesys.nfc01&hl=ja

最後に

酒祭りは好評だったが、飲み放題と言うのはいろいろ問題もあり、現在はチケット制となっている。 そのため、当システムは使われなくなったが、チケットの管理や、お客様の分析などを行うため、再度、導入を検討している。
最後に、当システムの開発に協力を頂いた、酒祭り実行委員会の方、開催日にスマホの操作をお願いした酒蔵の方、リストバンドの作成や、お客様への案内を行って頂いたボランティアスタッフの方、NFCタグを提案頂いたSAG社様、スマホを貸し出しして頂いたドコモ中国支社様に、感謝の意を示させていただく。  みなさまの力添えがあって、設計、作成、運用ができたシステムであった。